こんにちは。
看護師のわかばです。(@wakaba)
精神科病棟、療養病棟、整形外科クリニックで勤務。派遣看護師として有料老人ホーム30カ所以上、デイサービス、ショートステイ、訪問入浴などで勤務しています。
介護士としての勤務経験もあります。
<特養「あずみの里」業務上過失致死裁判 慨要>
2013年12月、おやつのドーナツを食べた後に急変、その後死亡した入居者の女性に対して、(たまたま近くに居た看護職員山口けさえ被告が)注意義務を怠ったとして業務上過失致死に問われた特養あずみの里業務上過失致死事件裁判。
2019年3月25日、長野地方裁判所松本支部は求刑通り罰金20万円の不当判決を言い渡し、一審・有罪判決。検察側は十分な根拠もなく女性の死因は窒息であるとし、看護職員がゼリーを配膳するべきだったのに確認義務を怠ってドーナツを配膳し窒息を引き起こしたと主張。
弁護側はドーナツの状態から窒息はなく、死因は脳梗塞や心疾患など別の疾患の可能性があったことや、おやつの形態変更を確認する義務はなかったとして無罪を訴えてきました。全国から集まった無罪を求める署名は44万5000筆。弁護側は判決を不服とし、ただちに控訴しました。
たたかいは東京高等裁判所に移り検察の起訴状は、死亡した女性には食べものを口に詰め込む特癖があり、隣にいた看護職員には注視する義務があったのにそれを怠り、窒息により死亡させた。看護職員がゼリーを配らなければいけないのに、ドーナツを配ったことが、おやつの形態確認義務違反だというものです。
裁判の争点は、
(1)死亡女性はドーナツを詰まらせ窒息したのか
(2)看護職員に注視義務違反があるか
(3)おやつ形態確認義務違反があるか
でした。
2020年1月30日に控訴審の第1回公判が行われ、弁護側は、入所者の女性の死因がドーナツを食べたことによる窒息ではないとし脳梗塞の可能性を示すコンピューター断層撮影(CT)画像に加え、専門家による意見書を新たな証拠として提出。専門家の証人尋問も求めたが、東京高裁はそれらを却下した。
検察は一審と同様、女性入所者の間食は、常食からゼリー状のものに変更されており、看護職員にはどんな形状の間食を提供すべきかを確認、それを提供し、窒息を防ぐ注意義務があったものの、それを怠った過失があると主張し即日結審した。
現在弁護団は憲法第37条に基づいて結審の取り消しを求め、刑事訴訟法第21条によって裁判官の交代を求めている。(長野県民医連、民医連新聞、中日新聞参照)
詳しい参考資料は記事の最後に転載しています。
特養「あずみの里」業務上過失致死裁判 責任を問うべきは施設の体制ではないか? 看護職員1人に責任を問う裁判の現状に提言します。
Contents
看護職員1人の責任なのか?
特養「あずみの里」業務上過失致死裁判に私は大きな疑問を持ちます。
事故は看護職員1人の責任なのでしょうか? 争点の中心は現在、ある看護職員1人の責任有無です。
ですが、責任を問うべきは施設の運営・管理体制で、看護職員1人では決して無いと思います。
つまり、被告がその看護職員1人という裁判の姿がおかしいと感じます。
そのように争点つまり視点を変えると新たに考えるべき事々が見えてきます。
<現在の争点 >
(1)女性入所者の死因は、ドーナツによる窒息か
(2)ドーナツを詰まらせないようにする注視義務が看護職員にあったか
(3)おやつ形態確認義務違反があるか
これらが現在(2020年1月30日控訴審の第1回公判時点)の争点の中心です。
この3点のみで看護職員1人に有罪・無罪を評決するのは、非常に浅はかだと思います。
以下にその理由説明を続けます。
ヒューマンエラーは必ず起こりうる
2020年1月30日控訴審の第1回公判にて「死因は脳梗塞」という複数医師の見解は退けられ、 1人の医師が示した「死因は窒息」のみが認められ結審しました。
現在弁護団が憲法第37条に基づいて結審の取り消しを求め、刑事訴訟法第21条によって裁判官の交代を求めています。
憲法第37条
第1項 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
第2項 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、 公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
第3項 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。 被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
刑事訴訟法第21条
第1項 裁判官が職務の執行から除斥されるべきとき、又は不公平な裁判をするおそれがあるときは、検察官又は被告人は、これを忌避することができる。
第2項 弁護人は、被告人のため忌避の申立をすることができる。但し、被告人の明示した意思に反することはできない。
ここで、「死因は窒息。看護職員のドーナツ誤配とその摂取に起因」 という1医師の見解が正しいと仮定して考えを進めます。
介護・看護の業務は人の行いなので、ヒューマンエラー(人間の起こす過ち)は必ず起きえます。
なので「ダブルチェック」がマニュアル化され、指導が徹底されるものです。
例えば、お薬の内服援助などでも必ず2回は薬品名・対象者など間違えないようチェックします。
そうしてヒューマンエラーが起きないようにするものです。それでもごく稀に事故は起こります。 ヒューマンエラーとはそういうものです。
「看護職員が誤ってドーナツを配布した」
これは明らかにヒューマンエラーです。
ドーナツを配布すべきでない相手にドーナツを配ったのですから。 ですが、その出来事の責任はその看護職員にあるのでしょうか?
そういったエラーを未然に防ぐ責任は施設の運営者が負うものです。
このケースであれば、
・おやつ配膳時の注意マニュアルの作成
・マニュアルどおりに実践させる指導の徹底
・実際に適切に行われているか評価する
といったことが責任の果たし方です。
そのように行われていたでしょうか?
併せて、
・安全な飲食のための「見守り体制」のマニュアル作成
・その実践指導の徹底
・運用実態の評価
を行うことも、施設運営者の役割であり果たすべき責任ではないでしょうか?
本件では、 施設運営者がその役割と責任を果たしていたのか、 そこに根本的な視点を置くべきと思います。
以下、その点を詳しく述べ進めます。
見守り体制における問題 争点(2)ドーナツを詰まらせないようにする注視義務が看護職員にあったか
ドーナツを詰まらせないようにする注視義務が看護職員にあったか。
これは2019年3月25日の第一審で裁判の争点となり、注視義務はなかったと否定されました。2020年1月30日控訴審の第1回公判でもこれについて争点となり再び注視義務はなかったと否定されています。
次の公判でも争点となる可能性がありますのでこの点に考えを述べます。
施設運営者は介護・看護職員に、食事やおやつ提供の際どんな見守り体制での実施を指導していたのでしょうか。
おやつ提供時に全体を注意深く見渡す職員が居れば、事故を未然に防げた可能性が高いでしょう。
ところが、本件おやつ提供の際、全体をしっかり見渡す職員が居なかったようです。
食事やおやつ提供の際には、全体をしっかり見渡す職員を必ず配置するのが基本です。
それは法的な決まりごとではありません。
ですが、私が看護実習で病院での食事提供を行った際は、食堂全体をよく見渡して身守りを行うよう看護教員から指導を受け、その実施者として配置されました。
看護助手として働いていた際も、全体の身守りを行う務めの看護助手が必ず1名配置されていました。
そして私は看護師として30か所以上の施設で働いてきました。
いずれの現場でも、全体を見渡す職員が必ず配置され、それは食事提供を行う現場での常識だと認識しています。
事故発生日に勤務者は看護職員1名と介護職員2名だったそうです。
発生時に看護職員は他の入所者の食事介助を行い、介護職員1は排泄介助中、介護職員2は飲み物の配布中。
看護職員は死亡した入所者の近くにたまたま居たとしても、他の入所者の食介中でした。
テーブル配置状況などにより、1人を見ていればもう1人に背を向ける事はあります。 実際そうだったようですね。
だとしたら両方を見るのは不可能です。
介護職員2は飲み物を配布しながら、全体をしっかり見渡せるでしょうか。
私には出来るとは思えません。
死亡した女性は食べ物をかきこむ癖がありましたが、1対1の身守りを要するとはされていなかったようです。
なので本来は、全体を注意深く見渡す職員が配置され、その責務を負うべきでしょう。
しかし本件現場では、全体をしっかり見渡す職員は配置されていませんでした。
看護師は介護施設では食介をほとんど行わないのが通例です。
ですが看護師は、介護士が行う基本的な介護業務の全てを行う技術と知識を持っています。 看護師は病院では食介をするし、施設によっては食介を行うこともあります。
ですから看護のプロとしては、全体をしっかり見渡す職員の無配置によるリスクに気付くべきではあったでしょう。
とはいえ、安全におやつ提供ができるような見守り体制をとるための
・マニュアル作成
・指導の徹底
・実施結果の評価
これらの実施は施設運営者の役割であり果たすべき責任だったと思います。
よってこの争点について、看護職員1人のみの責任ではないことを強調したいです。
全体を注意深く見渡す職員の無配置については、施設運営者の責任こそ問われるべきと思います。
よって刑法第211条(業務上過失致死傷等)
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」
この責任を看護職員1人に負わせるのは不適切であると思います。
おやつ配布における問題 争点(3)おやつ形態確認義務違反があるか
2019年3月25日の第一審で 「おやつの形態がドーナツからゼリーに変更となっていたのを看護職員が確認せず、誤ってドーナツを提供し窒息を引き起こした」 とされ有罪となりました。 2020年1月30日控訴審の第1回公判でも、同様の理由で結審しています。
現在、弁護団が憲法第37条に基づいて結審の取り消しを求め、刑事訴訟法第21条によって裁判官の交代を求めています。
施設運営者は介護・看護職員に おやつ配布時どんな確認をするべく指導していたのでしょうか。
おやつの形態変更は事故発生の6日前に介護職員複数の話し合いによって決定されました。
看護職員は形態変更されたことを知らなかったそうです。
一審にて 「看護職員が介護の申し送りノートの確認を怠った」という指摘があったそうです。
ですが通例では、看護職員は介護記録までは隅々目を通さず、 重要な申し送り事項は、朝の申し送り時に伝達するものです。
「知らなかった」ということは、介護職員の申し送り事項から漏れていたということです。
食形態変更の際、
・それを看護職員にも確実に情報共有する為のマニュアル(作業段取りの約束書き)の作成
・マニュアル内容を確実に実施させるような介護職員への指導
が徹底されていなかったならば、それは施設の運営上の問題であり、施設運営者が責任を問われるべきではないでしょうか。
さらに、おやつ配布を行う際のヒューマンエラーを未然に防ぐための
・マニュアル作成
・遵守の指導
・実施結果の適切性評価
などは実施されていたでしょうか?
もしそれらが欠けていたならば、それも施設運営者が責任を問われる問題と思います。
そうであったとしたら、 本件事故は施設運営者の責任こそを問うべきで、
刑法第211条(業務上過失致死傷等)
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」
その責任を看護職員1人に負わせるのは不適切だと思います。
国の配置基準を満たしていれば施設運営者が管理責任を果たしていたことにはならない
入所者数に対しての国の配置基準は満たされていた、と弁護士は述べています。
ですが、それで施設の管理責任が果たされるものではないと思います。
・業務の安全な実施のためのマニュアル作成
・マニュアルどおり実施させる指導の徹底
・実施結果の適切性について日々の評価
これらも備えて始めて施設運営者の責任が果たされるのだと思います。
訴えを審理した上で公訴棄却とするべきだった
上記、争点2と3に私が思ったことを御理解いただけるならば、 本事件の責任を看護職員1人のみに負わせ、刑法第211条(業務上過失致死傷等)のもとに裁くのは適切ではないと思えるでしょう。
ご遺族と施設運営者は 1300万円の示談金で和解が成立したそうです。その後、看護職員1人を検察が訴えたという流れです。
本件裁判は、その訴えの内容を施設運営の仕組みを含めて充分に審理した上で公訴棄却とすべきだったと考えます。
今後に向けて/業務のマニュアル化、指導の徹底を望みます
本裁判が重大な事件として取り扱われ、有罪か無罪か、介護業界の委縮に繋がる裁判だ、などと多くの方々が声をあげているのはもっともです。
医師による死因の見解は現時点では脳梗塞と窒息に分かれています。もし後者であったなら二度と起こさないためにはどうすれば良いのか?それを考えることが、今後大事になってくるでしょう。
ヒューマンエラーが起こりうる業務は明確にマニュアル化し、遵守の指導と事故予防策が充分に図られていれば、現場の職員は安心して業務に取り組めるでしょう。
又、本件には当たりませんが嚥下(えんげ:食物を呑み込むこと)に著しく問題のある入所者に飲食物を提供する際は、必ず1対1で食介する事で事故を防げるでしょう。
職員不足なら全体が食べ終るのを待ってから、その後食事介助が必要な方への援助を行う。(例えばご利用者数が全体で17名で、食介を要する方が1名であれば、先に16名の身守りを行い終えてから1名の食介を行う)それで事故は最大限に防げます。
高齢者の身体機能は時を経て衰え続け、リスクの危険度も日々上昇、日々変化します。それが事故の原因にもなりえます。ですから、事故を完全に防ぐのは極めて困難であるのは明らかです。
よって、この一件で介護業界全体が委縮する理由はないと思います。
むしろ、本件を今後の改善の糧として、介護業界は一層の奮起をする機会とすべきでしょう。
最後にもう一度強調します。
この裁判は、1看護職員のみの責任を問うこと自体が間違いで、そうした内容で裁判が成り立つ事がおかしいのではありませんか?
介護現場に携わる一員として、その疑問を声を大にして世に問いたいです。
この大きな疑問の周知を目指し twitter等SNSでの当記事の拡散にご協力ください。宜しくお願い致します。
以下のリンク先で長野県民主医療機関連合会が本件について、1看護師の無罪を勝ち取り、介護現場萎縮と利用者の福祉後退が起きないことを目指す具体的な行動を紹介しています。東京高等裁判所あての抗議署名の方法も紹介されています。
この裁判には介護の未来がかかっています。
あずみの里裁判支援のお願い(長野県民医連)http://www.mintyo.or.jp/min-iren/trial/
2013年12月、おやつのドーナツを食べた後に急変し、その後死亡した入居者の女性に対して、注意義務を怠ったとして業務上過失致死に問われた特養あずみの里業務上過失致死事件裁判。3月25日、長野地方裁判所松本支部は求刑通り罰金20万円の不当判決を言い渡しました。 検察側は十分な根拠もなく女性の死因は窒息であるとし、看護職員がゼリーを配膳するべきだったのに確認義務を怠ってドーナツを配膳し窒息を引き起こしたと主張。
弁護側はドーナツの状態から窒息はなく、死因は脳梗塞や心疾患など別の疾患の可能性があったことや、おやつの形態変更を確認する義務はなかったとして無罪を訴えてきました。
長野県内の介護、医療の関係者でつくる無罪を勝ち取る会は、このような事例で職員が刑事罰に問われることになれば介護現場は萎縮し、人間らしい介護を受ける権利が奪われかねないと、無罪判決を求める署名約44万5000筆を同支部に提出するなど運動を広げてきました。
弁護側は判決を不服とし、ただちに控訴しました。 判決後の報告集会には420人が参加。弁護団長の木嶋日出夫弁護士は「弁護人の主張を完全に無視した、しかも事実認定に関して説得力のない判決。控訴して徹底的にたたかいます」と引き続き支援を呼びかけました。
また長野県看護協会会長の松本あつ子さんが「このような裁判で看護師が罪に問われることはあってはいけない。引き続きともにたたかっていきます」と述べました。
当該看護職員は「残念な結果になりましたが私は負けません。あらためてご支援をお願いします」と語り、拍手に包まれました。最後に無罪を勝ち取る会の小林作榮会長から引き続きの支援の行動提起がありました。
(民医連新聞 第1689号 2019年4月1日)より
あずみの里裁判 舞台は高裁へ 必ず無罪の扉を開けよう6月25日、東京都内で特別養護老人ホームあずみの里裁判学習会を開き、113人が参加しました(主催‥特養あずみの里業務上過失致死事件裁判で無罪を勝ち取る会、あずみの里控訴審裁判支援中央連絡会)。3月に出された有罪という不当判決に対して、今後どうたたかうのか、学習会の内容を紹介します。(丸山いぶき記者)
2013年12月、長野・特別養護老人ホームあずみの里で、おやつのドーナツを食べた入所者(85歳、女性)が意識を失い、1カ月後に亡くなりました。翌年12月、当時、隣で別の入所者を介助していた看護職員が、業務上過失致死罪で起訴されました。
全日本民医連は、この裁判を介護の未来がかかった全国的課題と位置づけ支援。無罪を勝ち取る会の署名活動に協力し、同会は3月までに44万5532筆を裁判所に提出しました。しかし、長野地方裁判所は今年3月25日、検察の求刑通り罰金20万円の不当な有罪判決を言い渡しました。
弁護団は即日控訴。たたかいは今後、東京高等裁判所に移ります。
学習会の開会あいさつで、全日本民医連の岸本啓介事務局長は、「法廷で判決を聞いた時は、しばらく意識が遠のいた」と、まさかの有罪判決の衝撃を語りました。一方、マスコミの多くが判決に批判的と指摘。「地裁判決を国民的な批判にさらし、高裁のたたかいへ。看護職員とともに、法廷の外でも署名を集め、必ず無実の扉をこじ開けよう」と訴えました。
■介護を崩壊させる判決 続いて、控訴審で主任弁護人を務める藤井篤弁護士が、「裁判の経過と一審判決について」と題して報告しました。「当初、私が抱いた大きな違和感は、なぜ介護の現場で献身的に働くいち看護職員が“刑事責任”を問われるのか、ということ」と藤井さん。
介護事故を「犯罪」として裁くことへの疑問は、ごく常識的な感覚として報道各社も「例がない」と発信。検察と裁判所は、この当たり前とは違う判決を導きました。
検察の起訴状は、死亡した女性には食べものを口に詰め込む特癖があり、隣にいた看護職員には注視する義務があったのに、それを怠り、窒息により死亡させた、というもの。「当該看護職員を起訴したのは、たまたま隣にいたから。弁護団の調べで、亡くなった女性以上に注視すべき人が周りにいた実態が明らかになると、検察は犯罪の具体的事実である訴因を変更した」と藤井さん。
その内容は、看護職員がゼリーを配らなければいけないのに、ドーナツを配ったことが、おやつの形態確認義務違反だ、というものです。 裁判の争点は、(1)死亡女性はドーナツを詰まらせ窒息したのか、(2)看護職員に注視義務違反があるか、(3)おやつ形態確認義務違反があるか、でした。
弁護団は、看護学者の川嶋みどりさん、摂食嚥下専門の福村直毅医師の強力な証言も得ながら、争いました。しかし、判決は(1)死因はドーナツ摂取による窒息と認め、(2)は認めず、(3)看護職員にはおやつの形態確認義務違反があった、としました。
質疑では、異変後の初動についての声も。藤井さんは、「当初、職員はみな窒息による死亡と思い込み、異変後もそれを前提に振り返りを行った。その記録が全て、警察や検察に都合よく利用された」と話しました。
「判決を受けておやつの提供をやめた施設もある」と、現実に起きた現場の萎縮も紹介。「これが有罪なら介護現場は崩壊する。それを許さない国民的な世論をつくりましょう」と訴えました。
(民医連新聞 第1696号 2019年7月15日)より
医師3通の意見書、証拠採用却下、「あずみの里」事件結審東京高裁、弁護団の再三の異議・忌避も認めず 長野県安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」の准看護師が、ドーナツを誤って間食として女性入所者に提供したとして業務上過失致死罪に問われた控訴審の第1回公判が東京高裁(大熊一之裁判長)で1月30日に開かれ、弁護側は3通の意見書を含む16の証拠調べ、医師や刑法の専門家など7人への証人尋問、裁判所が選任する鑑定人による医学鑑定を求めたが、裁判長は証拠1つを採用した以外は全て却下した。
検察側は全てを「採用の必要性なし」としていた。判決日が未定のまま、結審した。 弁護人の水谷渉弁護士は、意見陳述で「法律家は、医学やサイエンスの専門ではない。絶対に冤罪を生まないために、法律家は、胸襟を開き、専門家の意見に真摯に耳を傾けなければならない。
万一、それを怠るとすれば、『法律家の傲慢』」と主張。証拠却下の判断を受け、主任弁護人の藤井篤氏は、「3つの医学鑑定書は、控訴審に至ってから作成された新たな証拠。これは無罪を言い渡すべき新たな証拠でもある。不採用決定は、『事案の真相』を明らかにすることを求める刑事訴訟法に違反する」と異議を唱えたものの、認められなかった。
准看護師は、当時85歳の女性入所者が2013年12月12日、間食にドーナツを食べた際に心肺停止となり救急搬送、翌2014年1月に死亡させたとして、2019年3月の長野地裁松本支部判決で有罪(罰金20万円)判決を受けた。判決を不服として即日、控訴(『「ドーナツ窒息による事故死ではなく脳梗塞」、弁護団主張』を参照)。
30日の公判は、25席の一般傍聴券を求め、375人が並んだ。1時間強にわたった公判は、弁護側が裁判長の訴訟指揮に異議・忌避を再三唱える異例の展開となった。
まず弁護側が約30分意見陳述した後、検察が控訴趣意書に対する答弁を約15分間述べた。その後、裁判長は弁護側が控訴審で新たに提出した証拠の大半を却下。弁護側は異議を申し立てたが、検察は「異議の申し立てには理由はない」と反論し、裁判長は異議を却下。
弁護側は裁判長の訴訟指揮が不公平だとして忌避を申し立てたものの、検察は「忌避の申し立てには理由はない」と述べ、裁判長は却下。そのまま裁判長が裁判を続けようとしたため、弁護側は再度異議を申し立てたところで、公判は中断、裁判所は合議に入った。約10分後に再開したものの、異議を認めず、結審した。
弁護側、「死因は窒息ではなく脳梗塞」と主張 本裁判の争点は、(1)女性入所者の死因は、ドーナツによる窒息か、(2)ドーナツを詰まらせないようにする注視義務が准看護師にあったか、(3)ドーナツではなく、ゼリー系の間食を与えるべきであると確認する義務(形状確認義務)――の3点。
一審判決は、(1)については窒息を死因とし、(2)の義務は否定したが、(3)の点で過失があったとして、准看護師を有罪とした。
弁護側は、30日の公判で、▽准看護師がドーナツを与えたことは業務上過失致死罪に当たらない、▽そもそも女性入所者の死因は、ドーナツを詰まらせたことによる窒息ではなく、脳梗塞――の2点を主張。藤井弁護士は、前者について、女性入所者は嚥下障害ではなく、ドーナツが窒息を生じる食塊ではなく、女性入所者の窒息する予見・回避可能性もないとした。
死因について水谷弁護士は、Ai(死亡時画像診断)等から脳梗塞を発症したことは明らかであると主張。弁護側が控訴審で提出した意見書は、Aiの専門家、脳神経外科と救急医療の専門医による3通。
Aiでは、「脳底動脈先端部の梗塞」が明らかに認められ、事実経過(急変時、むせることもせき込むこともなかった、嚥下障害はなく、数日前にもドーナツを食べきっている、窒息であれば心肺停止まで十数分程度かかることが通常だが、本件は1、2分で心肺停止している、女性入所者の口から出てきたドーナツは指1本分程度、搬送先の胸部レントゲンでも気道に異物が写っておらず、肺の形もきれい、など)からしても窒息ではないと訴えた。
これに対し、検察は一審と同様、女性入所者の間食は、常食からゼリー状のものに変更されており、准看護師にはどんな形状の間食を提供すべきかを確認、それを提供し、窒息を防ぐ注意義務があったものの、それを怠った過失があると主張した。検察が、死因について言及したのは、弁護側が証拠却下に異議を唱えた場面のみで、死因については一審で議論を尽くしていると指摘。
医師3通の意見書は、主に女性入所者の死亡時のAi等に基づくもので、ドーナツが間食として提供された2013年12月12日の脳梗塞発症の根拠にはならないなどとして退けた。
2020年1月30日m3.com より